「起きて下さい、先輩」と俺が声を掛けてもすぐにはどうせ起きない。まあそういう人だ、この人は。「風邪引きますよ、こんな所で寝てると」と言っても「んー…」と言ってすぐに夢の中、だ。こんな所って言うのも当たり前だろう、ここはテニス部部室の前。中、ではなくて前。別に見知らぬ人でもないし先輩は跡部さん達とも仲が良い(まあそのおかげで俺は先輩と知り合えたのだけど)のだから勝手に入っても誰も文句は言わないんじゃないかとつくづく思う。子供のように体育座りをしてドアの前で蹲って寝ている姿を見ているとため息が出てきた。年上とは思えないな、この人。本当に子供っぽい。そんなところが可愛…じゃない誰が言うかそんな事!いつもはきはきしていて(うるさいともいう)あの跡部さんたちにもはっきりと物事を言うこの人も寝ているときは本当に静かでやっぱり女の人なんだと思う。子供を寝かしつける親みたいに髪の毛をなでてやる。その髪の毛は柔らかくて、さらさらしていて、どこかふわふわしていた。いつも危なっかしくて見ていられないから怒ると「日吉の馬鹿ー!心配性ー!オカンー!」って言われる。前は「日吉は無愛想やなあ」とか周りには言われていたのに今は「オカン」だ。人に言わせれば丸くなったというけれどそんなに自分で変わった気はしない。無意識のうちに先輩のことを叱っているからか。そんなでいつもは確かにオカンみたいにグリグリしてやっていた頭はふわふわだった。ここまでしても起きないのはそろそろ重症じゃないのか。無理に起こしてやろうか、このお子様先輩を。「ん…?ひよし…?ひ、日吉!?ちょっ…!んぅ…」「起きました、先輩?」「キスはないでしょ!びっくりしたぁ…」やっと起きたみたいだった。「やだよ…そんないきなり…」…!怒られると思っていたら先輩は顔を真っ赤にしていた。その動揺を知られないように俺はいつもみたいな不敵な笑いを頑張って浮かべて話しかける。「こんな所で寝てると風邪引きます。怒りますよ」きっと「ちょっと怒らないでよこのオカン!」って言うんだろう「だって…日吉のこと待ってたんだもん…ごめんね?迷惑だったら帰るけど」「え…いや、そんなことないですけど。これからは部室の中で待っていて下さい。本当に風邪引きますから」と俺は言った。
(貴女の赤らめた頬に胸が高鳴ったのは死んでも言ってやらない)
部活後ロマンス