「何だよ…っ、これ…」
「何って、僕と君が保健室にいていまにも性行為に及びそうな状況の事ですか?」
「そうじゃなくて!あ、いやそれもあるけど、何で俺はこんな格好をしてんの!!」
「ナース服、ですか。良く似合っていますよ」
「そんな事どうでも良いっ!この変態…!」
「そうかも知れませんね」

梶本は目を覚ました千石の上に覆いかぶさるように跨った。千石は自身の置かれた状況に混乱しながら、しかし自分の格好を見て下手に逃げることも出来ずに地団駄を踏んだ。それもそのはずである。まるで、というかそのままコスプレ用のナース服をいつの間にか着ていて、しかも股下を図るのもはばかれるミニスカートにガーターベルト。恐らくサイズは大きい方なのだろうが女性用なのだろう。痩せている太っているの問題ではなく、体系的にキツイ。千石はまごうことなき男であり、女性的な体つきをしているほど華奢と言うわけではない。それでも、そのスカートの下から伸びる足は細く、艶かしいのは確かだ。ピンクがかったナース服を着た自分を見るだけで恥ずかしい。

その前に、どうしてこうなったんだ、と千石は考えていた。ここはどう考えてみても山吹中の保健室で、放課後という事は分かっている。しかしどう考えても何故こう成り行きになったのか分からない。というか分かりたくない。

「どうして、俺は梶本君とここにいるの」
「君をちょっとばかり気絶させて連れてきました」
「先生とかはいなかったの」
「もうお帰りになるそうでしたよ。ですから、千石君が少し気分悪いそうなので、と言えばすぐに僕にここを任せてくれました」
「君は、信頼を得るのが得意だね。他校だってのに」
「僕の特技です」
「どうでもいいけど、着替えさせてくれよ…こんな格好」
「別にいいでしょう?似合ってますから」

梶本は千石に覆いかぶさったまま唇を重ねた。千石の息が上がり始めると梶本は唇を離し、千石の唇をぺろぺろと舐める。繰り返すその仕草に、千石は頬を赤らめる。梶本が「真っ赤ですよ」と指摘するので、千石は「梶本君が変な事するから」と言い返そうとしたが、言い終わる前にもう一度舌を絡め取られ、口を塞がれてしまった。長いキスの合間に、緩んだ千石の口の端からどちらの物とも取れない唾液が滴る。キスをしながら、梶本の手は千石のスカートへと伸びていた。いやらしく腰の辺りを撫で回すその手を払おうとするが、梶本の方が一枚上手で、すぐに避けられ丸め込まれてしまう。スカートの中へ伸びる骨ばった手に、千石が声を漏らす。

「ど、こ…触って…」
「言わなくても、分かっているでしょう」
「や、やめっ…」
「こんな時に“やめて”なんていうのはあまりにも無粋ですよ?」
「知らな…っ」

梶本が千石の耳元に熱い息を洩らすと千石の肩がビクッと跳ね上がった。それに気を良くした梶本は千石の耳元でゆっくりと話し始めるが、その度に吐息が吹きかかり、千石の耳には梶本の言葉など入りはしなかった。千石には、既に梶本に抗う術はなかった。

「熱いですね」
「…ぅあっ、く」
「僕も、熱いです」
「熱、い…っ」
「治してくれますか?」
「治す…?」
「そう、君は看護士ですから」

梶本の言う意味は千石にも理解出来たが、梶本以上に千石の体を欲望の熱が蝕んでいた。それでも梶本は器用に自分がうつ伏せになり、千石を自分の上に移す。そして千石に微笑みかけ、「お願いします」と言った。千石の目は朦朧としていた。自分が何をしているのか分かっていないようで、驚くほど素直に言うとおりにしていた。千石の震える舌がそれを少しずつ刺激していくが梶本は余裕そうに千石を見下ろして「まだ治りませんよ」と言って千石の頭を押さえつける。頭を掴まれているため、千石は目だけで縋るように梶本を見上げるが、梶本はそれに何も答えはしない。千石は必死に口を駆使する。だが梶本はその口を離させた。

「もう結構です。その代わり、僕の目の前で満足させてください。そうすれば治るかもしれない」
「い、いや…だっ…」
「ここに人を呼んでも構わないんですよ?恥ずかしい思いをするのは君だけだ。その格好を見たら男達が君を野放しにはしないでしょうね」
「……っ」
「良い子ですね」
「何、すればいいのか、分からない…っ」
「君が見られて恥ずかしいと思うことをして下さい」
「っ!意地悪、だから梶本君は嫌いだっ…!」
「患者に嫌い、は無いでしょう?」

梶本はベッドに腰掛けながら自分の方に千石を向かせて座らせ、膝立ちにさせた。「少し待っていてください」と言って梶本は薬箱を取りに行った。そしてもう一度腰掛けると梶本は千石に自分のスカートを捲り上げさせる。そこで千石は自分が下着を着けていないことに気付く。それに真っ赤になった千石に梶本は「鈍いですね」と笑った。羞恥に駆られながらスカートを震える手で掴んでいる千石をジロジロと梶本は見る。そして梶本は薬箱から色々な物を取り出した。消毒液を手に持つと、プラスチックの蓋を開け、冷たい液を少しずつ千石の熱をもったそれに垂らす。

「ひぁっ、…!冷た、い…!」
「こんなに大きくして、熱いですから、冷やしてあげるだけですよ。やっぱり僕は患者、というより医者にならないといけないみたいだ」
「知らない、よっ…、それっ、も、やめ…」
「そうしたらよく拭いてあげないといけませんね」

梶本はピンセットとガーゼを手に持った。ピンセットでガーゼを挟み、消毒液を優しく拭いていく。その感触はくすぐったく、千石のスカートを握る手は更に震える。

「…ん、っ、ふぅ」
「手を離さないでください」
「ぅあ…っ」
「…スカートが皺になってしまいましたね。もう脱いでしまうといいでしょう」

梶本は千石をそのまま寝かせると、スカートだけを脱がせた。ガーターベルトとニーハイ、そしてナース服の上半身だけという格好に、千石は身を折り曲げて小動物のように縮まった。潤みながらも少し挑戦的に見つめるその瞳に、梶本は芯から湧き上がる興奮に襲われていた。千石が拗ねたように「意地悪…」と言う。梶本はおもむろに千石の頬にキスをした。

「どうして、そう僕の計画を無意識に駄目にしてしまうんでしょうね」
「…?」
「君が可愛らしいから、どうしても最後まで意地悪しきれなくなってしまう」
「可愛いって…俺は、男…っ」
「分かっていますよ。本当に、可愛らしい…」






僕は患者で医者で