「君は僕の言う通りにしていれば良いんですよ」
そう、それは何度も何度も、様々な人に言った様な気がする言葉ですね。実際、皆さん僕の指揮の下にあるのですから僕の指示におとなしく従っていれば良いと思うのです。だってそうでしょう?勝ちたいという思いを一心に頑張って努力した方々が集まったのですから皆さん何をしても勝ちたいのでしょう?ええ、僕も同じですよ。勝ちたいですよ、勿論。
ですから、僕は皆さんに言うのですよ。
「君は僕の言う通りにしていれば良いんですよ」と。
ただ、ここに中々手なずけるのが困難な方がいましてね。本当にこれはこれで手なずけ甲斐があると言うものです。
まぁ、裕太君にも中々手を焼かされたものですが何だかんだ言って裕太君は僕を尊敬していますから。
しかし、今回は一味違うのです。「言う通り」と言いましても少し方向性、と言えば良いのでしょうか。それが違います。
僕のシナリオも何も関係のない世界での事。シナリオが通用しないのは難ですが、シナリオばかりではつまらないし僕の実力が分かってもらえないと思いますのでね。それでもこちらの面でも僕にはぬかりは無いつもりですよ、一端も。例えシナリオやデータが通用しないからといっても冷静に頭で考えれば成し遂げられるものです。
ね、そうでしょう。木更津淳君?
* * *
「み、観月っ…」
「どうしたんですか、何です?今になって怖いなどと言うんじゃありませんよね?」
「怒ってるなら…、許して…つ、次はしないから…」
「試合に負けたことですか?ああ、その事なら全く気にしていませんのでご安心を」
「じゃ、何で…こ、んな事…」
どうしてでしょうね、と言う言葉を吐いた後僕は笑いました。きっと木更津君には見えていないのでしょうけど。僕の指示でつけた鉢巻によって、僕の手によって、視界というものを奪われているのですから。
先ほどの言葉に嘘はありません。
試合に負けた事を気にしていなかったと言ったらそうは断言は出来ませんが所詮過去の話です。そんな事もしかしたら僕にとって今となっては試合に勝とうと負けようとどうでもいいのかもしれません。
ですから、嘘ではないのですよ。先ほどの言葉は。
君とこうしている事の名目になっているのはそうですが君がその名目を気にするほど律儀な方とは思いませんでしたよ。そこも感心すべき点です。
君は元々僕の期待通りに動いてくれる人でしたから、僕は安心しているんですよ、心底。そして信頼もしているんですよ。だから、また僕をきっと満足させてくれるのでしょう?今この時点で君は僕が指示を出さなくとも僕の望んだ通りの反応をくれます。こうも僕の期待通りに事が進むと僕はつい調子に乗ってしまいますよ。
その柔い肌に僕という証を刻み込みたくなるのです。ええ、例えどんな手を使ったとしても。
「み、づきっ…」
「何です?木更津君」
「淳、て呼んで…」
ああ、どうしてこういう僕を一々煽るような事を言うのでしょうか。つい言う事を聞いてしまう。望んだ通りの反応なのですが予想していた反応と違う物ですから。
ですが僕も優しい男ではありませんのでこういった事を言われると嬲ってあげたくなるのですよ。苦痛に歪めながら僕に懇願する顔が見たい、と思うのは決して僕が虐待趣味があるから、と言う事ではないと思うのです。まぁ、そういった趣向があるといったらあるのでしょう、多少は。
君が、僕の手を焼かせるものだから、いっそ思い描いていたシナリオではなく、ストーリー。ストーリーから大幅に外れた事をしたくなってしまうのです。
「で、どうしました、淳君?」
「これ、取って…いや、だ…」
「それは何の事です?君の視界を奪う鉢巻をですか?それとも君の中でいやらしく蠢く機械をですか?」
「どっち、も…!」
「それは無理なご相談ですね。そうしたら君は快感という苦しみから逃れると共に僕からも逃れてしまうでしょう。それはいけません」
「だって、これ…ほんと、ヘンな感じっ、やだ…」
「感じているのでしょう?」
「そんなんじゃっ、ないけど…!はぁっ、…熱い…っ」
僕は口が達者だと昔から言われてきたのですが、こんな所でこんなにも役に立つなんて思いもしませんでしたよ。僕が言葉を冷酷にかける度に君は敏感に反応していくのですから、君もあながち被虐嗜好があるのではないでしょうか。僕が虐待趣味があるのだとしたらこれほどの好条件はないでしょう。それに、こんなにも僕の手で証を刻み込まれた君を満足させられる人などもういないでしょう。僕も同じ様に。君じゃないと嬲り甲斐がありませんので。
君は本当に卑猥な男だと思いますよ、心底。
ただ、視界を奪われて、機械仕掛けの振動を与えただけで君も君のものも限界だ。
もし僕が思いのままに手を加えたら一体どうなってしまうのでしょうね?
「気持良いのでしょう?正直に言ってごらんなさい」
「いや、だっ…!」
「それなら仕方ないですね、どうって事ないのでしたら僕がいなくても大丈夫でしょう?僕はこの辺で失礼します」
「あっ、待って…!う、そ!気持ち、いい…から」
「そうですか。それは良かった。しかし不公平ですね。君だけ良い気持ちをしているというのも。僕にも快感を与えてくれませんか?」
「俺…上手く…ないっ、よ…」
「構いませんよ」
「じゃ、鉢巻と、中の…取って、ちゃんと観月の事…気持ち良く、するからっ…」
「本当に君は可愛い人ですね」
前言撤回、僕は君相手に全く冷静に考えてなどいられなかったのです。