三ヵ月後
よく晴れた日。気温も暖かく、過ごしやすい日だ。風もほどよく道を歩く人々の髪を靡かせる。
ある駅前。東京やその付近ではよく見かけるであろう、見上げると大きな画面にテレビ。そこで、一つの、興味ない者がほとんどで通り過ぎてしまうような現代となってはありきたりなニュースが流れていた。
『―――――次は、行方不明者のニュースです。行方不明になったのは東京都在住、大学2年生の さんです。行方不明になったのは恐らく三ヶ月前。住んでいたマンションから忽然と姿を消したということです。同い年で同居人の男性はその二ヶ月前に亡くなっており、その後大学は無断欠席をしていたそうです。部屋には、荷物類がそのままになっており、
ピアノの傍に紅い薔薇が二輪、散っていたそうです。
警察は何らかの事件に巻き込まれたと見て、捜査を続ける方針を示しています。』
「宍戸さん。ここでしたよね、忍足さんと跡部さんの家って」
「ああ、今じゃもぬけの殻だがな」
長太郎と宍戸は高いマンションを見上げていた。その顔は物寂しげだった。風が吹くと、マンションの庭に植えてある植物の葉が僅かに舞う。長太郎と宍戸は首が痛くなるのも厭わず、長い間、マンションの忍足と跡部の部屋であった場所を眺めていた。
「もういいだろ、長太郎。きっと忍足は戻って来ねーよ…きっと」
「…そうですね」
「ほら行くぞ」
「ハイ。…?ちょっと待って下さい宍戸さん」
「何だよ」
「何か、聴こえませんか…?ピアノ…みたいな」
「そう言われれば…」
「これはG線上のアリア…?」
「あの、ベートーベン…のやつか?」
「ええ」
気づけば、辺りにはピアノの幻想的な、それでいて優しく、穏やかな音色が響いていた。
そして二人の上に薔薇の花びらが少し、風に乗って舞い降りてきた。
「もう、いいよな。今度こそ行くぞ長太郎」
「あ、待って下さい宍戸さーん!ちょっと置いていかないで下さいよー!」
紅い薔薇は新たに吹いた風に乗ってまた舞い上がった。
そして、散っていった。
二輪の薔薇が、綺麗に。
(君と共に散れたなら)
the end