「景吾が死ぬ時は、俺も連れて行ったって」
「はぁ?」


だってそやろ?景吾がおらへんこの世に何の未練も意味もあらへん。ホンマ仮に景吾がおらへん世界になってしもたら世界なんて消えてしもて構わへんし、この世の人間なんて全部、そや一人残らず死んでしまえばええと思うんや。せやけど、そしたらまた景吾を独り占め出来へんから、景吾と一緒に死ぬのは俺だけでええと思うんや。そしたらその後この世界っちゅうもんが(まぁ景吾がおらへんようになったら世界なんてたいそうなものやなくなるけど)どうなっても俺には関係あらへんしどうなろうがどうでもええわ。もし何にも変わらずにそのままやっても奇麗事ほざく奴らの言うように平和になってもお天道さんが爆発して世界が無くなったいうてもええよ、別に。俺の世界、つまり景吾が壊れんのやったら他がどうなってもホンマええわ。正直言うてこの明治維新とか、大政奉還とかもどうでもええねん。ただ、景吾がおるから俺もここにおる。俺の存在しとる理由はそれだけなんや。理由っちゅうても俺が勝手に決めた理由やけど。皆理由なんてそんなもんやろ。せやから、俺は攘夷が成功して、新しい時代、開かれた時代が来たとしてもだからどうするわけでもあらへん。ただ、それで景吾が幸せやっちゅうやったらそれでええし。俺が昼間は街医者しとるのも世の立派な奴らは人一人でも救いたい、とか言うんやろうけどそんな事これっぽっちも思ってへんねん。医者っちゅうもんやっとれば結構便利やからな。街に上辺上の居場所は得られるやろ。それにそこそこ生活に困る事もあらへん。何度も言うけど、ホンマはこんな事どうだってええねん。医者やっとってそこで顔利いたから景吾ん家に出入り出来るようになったしな。そこが一番の儲けもんやろか。なぁ、景吾。俺ホンマ自分がおらへんとあかんねん。自分は俺の背中に爪立ててもうたらすぐにバツが悪そうに謝っとるけど、構わへんよ。寧ろもっと爪立ててもっともっとぎょうさん俺の背中に刻み込んでくれてええんよ。俺はその傷で夢の中行くんやから。


「どういう意味だ、忍足」
「せやからな、このご時世、無事に生き残れるとは限らんやろ。もし、景吾に何かあったらその手で俺を、殺して」
「その時に俺が居なかったら」
「絶対おる。景吾の傍に俺は絶対おるよ」


せや。絶対景吾の傍に俺はおるやろな。離れる気なんてさらさらあらへんし。景吾がその場になって生きろ、て言うても俺は景吾の手に刀握らせてその手握って自分で刃先向けさせてでも俺の事を殺させるんや。そやないと意味あらへんし。いつまでも癒えへん傷跡が俺の体に残るやろ、跡部景吾っちゅう奴がおったっていう証みたいなもんが、忍足侑士っちゅう奴が跡部景吾に殺されたっていう絶対的事実が残るやろ。もし俺が先に死ぬんやったら俺が景吾の事殺したるかどうかは景吾に決めさせたるつもりやってんけど多分俺は答えを待たへんで景吾の事殺して一緒に死ぬやろ。俺としてはその時を待たんで今ここで殺してもらってもええんや。そないすれば体重ねた度に感じとった寂しい感じももう感じひんようになるし、時代の流れに飲まれて眩しくて見えへん闇に落ちてく事も無くなるやろ。結局どっかで野垂れ死ぬんやったら俺は俺の気持ちの押し付けやったとしても景吾の愛を一身に感じとりながら蝕まれたいと思っとるし何より景吾の事を蝕まんでしまいたいと思うんや。


「景吾、好きやで」
「そうかよ」
「だから、抱かせて」
「いちいち口で言うな、どうせ何を言っても抱くじゃねぇか」
「俺が確認したいんや」
「お前は何回したら気が済むんだ」
「何回でも飽きへんよ。景吾が好きやから」
「病気じゃねえのか、何かの」
「そうかもしれへんわ」


ホンマ、俺は病気やと思う。せやけど、何ていう病気か分からんねん。名前があれば俺は医者やから治せるはずなのに、肝心の病名が分からへんのや。せやから、いつまでも景吾を愛しく思う度に苦しくなって楽になられへんのや。景吾を想う度に俺の体を不安を悦びが突き刺すんや。なぁ、景吾。そういう訳やから責任とって、

景吾の事殺させて、俺の事殺して





(この手で この手で あなたを汚して)

哀歌(エレジー)











元ネタ:平井堅「哀歌」