人は、何かに執着、愛着を感じる事に人生における満足感を感じるのだと言う。そしてその対象が人を始めとする生物であった場合、人はその執着の対象に対してどうにか自分の精神の執着を伝えようとする。しかし、それはあまりにも抽象的な事であり、人が執着心を伝達する手段は自分自身で明確に考え付くことは非常に困難である。そして、人は伝達が上手くいかずに途方に暮れ、また本能の赴くままにでも伝達を成し遂げようとする。それは恋愛の類であったり、尊敬や親愛の類であったりする。または、一般論、所謂常識を大きく逸脱したケースもある。この方法は、対象者、言い換えれば二人称に当たる者や第三者にとっては理解しがたい手段であり非難・罵倒を受ける事が殆どであるが、行為者、つまり第一人者にとってはそれのみでしか己の内なる思いを伝達する手段が与えられなかったのだ。まとめれば、人Iが生命を所有する不特定物yに執着心を抱いたとする。そしてこのIがyに対し何かを訴えるために行った行動の一切は、罪ではない。
「……っ、外せっ!」
「誰に言うとんの?」
「お前以外に誰がいんだよ…っ、こんな部屋…」
「そらぁ鎖で足を繋がれとる跡部とそれを見とる俺しかおらへんなぁ」
「分かってんなら外、せよ…っ!」
「何で、跡部にそんな口利かれへんとならへん、のや」
忍足はうつ伏せになりながら瞳だけは反抗的に忍足を睨み上げる跡部の左肩を踏みつけた。革靴を履いたその足でぐりぐりと踏みにじれば跡部が「ぐっ…!」と呻き声を漏らした。跡部から微笑たりでも声が漏れれば忍足はさも楽しそうに行為を続ける。暫く続け、足を離してみれば跡部の白いワイシャツにまた一つ靴の跡が増えた。よく目を凝らさずともそれは跡部のワイシャツに無数に存在し、忍足の足による蹂躙の跡が見受けられた。忍足は跡部のワイシャツの襟を乱暴に持ち、引っ張り上げた。そして仰向けにしながら体を床に叩き付けた。右手を首に回し、ぎりぎりと力を入れていく。跡部の喉から苦しそうな空気の漏れる音がしたが忍足は口元を歪めて意地の悪い微笑を浮かべるだけだった。
「好き、って言うてみ?」
「だ、れが言う、かっ…!」
それを聞くと忍足は更に腕に力を込めた。跡部はそれなりに自由を許された手で忍足の腕を外そうともがくが虚しく終わる。跡部は懇願するように首の圧迫に耐えながら言葉を発した。
「す、き…すき、だから、好き、だから離、せ…!」
「言えるんやったら最初から言うとればええのに」
「……っ!」
忍足が跡部にキスをした。乱暴さは一切なく、甘く、優しいキスであった。絡める舌は温かく次第に熱を集め始める。忍足は舌を絡めながら跡部の指通りの良い髪を優しく撫でる。忍足が跡部の腔内の唾液を絡めとる。銀の糸を引きながら切なく離れた唇で跡部の耳元に囁き、またうつ伏せに叩き付けた。首根っこを掴んで先ほどの優しいキスからまた元に戻り、跡部が時折漏らす苦しそうな声を満足そうに聞いているだけだった。
ただ、耳元で「俺も愛しとる」と囁き。
(ねえねえ、痛いかい?)