本当に気分が悪い。頭の悪そうな表現だが、これは別に身体的な理由でだるいとかそういう事じゃない。言葉の悪い表現をすれば「胸くそ悪い」って言うのか。まあ、そんな感じだ。今日は折角の日曜日だからって俺は優雅な休日をすうごそうとしたんだ(まあ俺はいつも優雅だ)それなのにあのアホな眼鏡のせいで台無しっつーか、その台無しってほどでもねーんだけど、よ、なんつーか予定が狂った。普通いきなり人んち乗り込んきやがってあいつんちなんか行かなきゃならねーんだ。しかも普通の奴だったら家の執事達が追い返すが忍足の野郎はそういう時だけ無駄に外面が良いからムカつくんだよ。ただの変態野郎のくせして。大体俺は忍足は親と住んでるって聞いてたぞ、おい、何でマンションなんかあんだこの野郎。と言ってみたら「今日から一人暮らしデビューや!こんで心おきなく景ちゃんを連れ込めるんや!」とか抜かしやがった。んなもんデビューすんな。お前はストリートライブでも勝手にデビューしてるといい。その気持ち悪いねっとりした声に認めたくもねーが女どもが寄って来るさ。勝手にやってろバーカ。とまたまた言ってみると「俺は景ちゃんしかいらへんねん!ホンマはここで景ちゃんと同棲したい気分やねん!てゆーか同棲ってええなぁ…響きがエロいやろ?」とか言ってきやがった。マジ、お前はいっぺん死んでみるといい。ちなみに今の台詞回しは地獄少女とかそんなんじゃねえから。忍足の家に全巻あったような気もするが俺は断じて見てねえから。そういえば忍足が「赤目はええけど俺的にはあいちゃんよりやっぱ赤目といえば綾波ちゃんやねん!あ、景ちゃん新刊の11巻読んだ?カヲル君めっちゃ泣けんねん、景ちゃんも俺に『嫌いじゃない、嫌いだなんて言ってない』って切なそうに言って」とか言ってたような言ってなかったような、とにかく俺の記憶からは抹消したつもりだ。じゃあ何で俺はその11巻が家にあるかってのは別に忍足に影響された訳じゃねえ、きっとギアスで操られてたんだ。そんなオタク話はどうでもいい。
とにかく忍足のせいで俺の気分は最悪だ。
「なぁ、景ちゃん一回くらいええやろ?折角の休日やし」
「馬鹿かてめぇは!」
「あ、関西人に馬鹿は禁句やねん景ちゃんのアホ!」
「大体てめぇはそういう事するために俺を連れ込んだのかよ!」
「ちゃうねん、景ちゃんがあんまり可愛えからっ…何でも言う事聞くで!な!」
「じゃあその変態臭い眼鏡どうにかしろ」
「そんな事でええのん?はい」
「何で俺に渡すんだよ」
「景ちゃんが気に食わへんのやったら割ってもええよ、粉々に」
何でそんな事言えるんだよ。馬鹿かお前本当に。こういう時だけ無駄に聞き分けがいいから俺が我がままを言ったところで結局忍足の野郎に振り回されてる気がする。忍足がニヤニヤして俺を見てきてムカついたから本当に割ってやった。床に叩きつけて、踏みつけたらメキョッという微妙な音がしたのは忍足の眼鏡だからだろう。それにどうせこいつは絶対にスペアを持ってやがる。賭けてもいい。多分、全部丸眼鏡だ。想像してて気持ち悪くなった。足を離したら俺の足が置かれていたところにいい感じに砕けた眼鏡の残骸があった。割れたじゃなくて砕けたってところで俺は少しすっきりした。ザマーミロ馬鹿忍足。と思って忍足の方を見たら余裕ぶっこいてまだニヤニヤしてやがるからまたムカついてきた。てめぇ何子供の砂遊び見守る親ような視線でっこっち見てんだ。もっかい無理難題言ってやろうかこいつは。
「まだ何かあるん?」
「その鬱陶しい髪の毛を括るかどうにかして鬱陶しくなくしろ」
「んー、仕方ないなぁ…」
忍足が座っていたベッドから立ち上がって小さい引き出しのところに行く。ヘアゴム取るのか知らねえがあるんなら初めからやっとけと思う。いちいちよくわからねえ奴だ。
「ほら、これでやっちゃってな」
「ハサミ…?」
「景ちゃんこの髪の毛が不満なんやろ?切ってもうてええよ、景ちゃんなら構へん」
「お前…、何考えてんだ…?」
「景ちゃんの事」
「馬鹿、じゃねぇのか」
「馬鹿でもええよ、ほら切ってもええよ」
ハサミを握らされた手がらしくもなく震えた。確かに忍足なら言わない事もなさそうだが、普通そこまではしないだろう。忍足の口調が寧ろ切って欲しいという感じだったから忍足の背後に回ってその長い髪の毛に手を伸ばした。痛んでいるとばかり思っていた髪の毛は俺から見ても意外と綺麗な方で驚いた。ハサミの刃を開いて忍足の髪の毛を少し挟んだが切る前に無駄に心臓の動きが早くなった。まるで少女漫画のやつみたいになった気分でウザったい。後ろからは見えないがきっと忍足は確実に笑ってる。中々決断出来ない俺の事をまた振り回して笑ってる。きっとここで俺が止めたら「やっぱり何だかんだ言って俺の髪の毛も含めて俺の事好きなんやろ」とかそんなんを言われる気がしたから、決意を込めてハサミの刃を合わせた。金属の刃と刃が合わさるシャリン、という音と髪の毛が落ちるパサッという音が聞こえた。無造作に髪の毛の短くなった忍足がこっちを向いた。眼鏡も掛けていなくて、まるで違う奴みたいだった。
「一思いにやってくれたなぁ」
「前よりか涼しそうでマシだ」
「な、これでええやろ?」
「どうせ駄目だ何て言わせねぇくせに」
「よう分かっとるやん。あんな、今だけは…」
「…?」
「景ちゃんしか知らへん俺やねん」
「意味、分からねえよ…」
俺が死ねと言ったらこいつは本当に死んで「景ちゃんはこれで俺を忘れられなくなるやろ?」と言うんだろう。
(本当に俺はこいつに弄ばれてる)