例えば、Aさんと言う人がいて、わたしとそんなにも差が開いているわけじゃないけどわたしの方が少しだけ頭が良かったとする。テストをやって、わたしがもし99点でAさんが98点だったら皆Aさんの方を褒めるんだ。「ねぇねぇAさん、何点?」「98だよー」「わー凄いんだね!Aさんは皆の憧れだよ!」みたいに。別にわたしが嫌われてたり(少なくとも表面上は)とかわたしが無視されているわけではない。現に、同じクラスのあの人より自慢じゃないけどわたしの方が少しだけ睫毛が長いのに皆「××さんは睫毛が長いんだねー!綺麗ー!」とか言ってた。調理実習の時だって違うあの人より、客観的に考えてもわたしの方が上手に出来ていたのに、あの人の料理に皆集まって行った。皆わたしの事を大して評価してくれない。断っておこうと思うのだけれど、決してわたしはナルシストではないし、わたしばかりを評価しろなんて言ってない。あの人が睫毛が長くて綺麗なのは分かっているし、あの子の料理は頑張って作ったのだから美味しいしとても上手だと思う。ただ、わたしの事を評価してくれないのなら、頑張る必要性がないと思うし、そりゃあ人は勉強とかするのは自分のためだ、とか言うけれど、自分の為にやるならそこまで強制させなければいいじゃないか。わたしは自分の為にする勉強なら別にしないし、それなりに常識があって、幸せに暮らせるのなら勉強出来なくても構わない。でも、せっかく頑張ってやってるのに、どうして評価してくれないんだ、わたしの事、認めてくれないんだろう。わたしはそりゃあ平凡な、ちっぽけな人間だけど、クラスとかそんな小さな世界の中でさえ、平凡な人間になっちゃったのかな。わたしに、カリスマ性とか、後は「かわいい」とか「綺麗」とか形容詞が特別当てはまらないのがいけないのかな。

今日だって私は珍しく風邪とうものをひいてしまって寝込んでいるわけだけど、それを朝に友達にメールしたら「うわ、偶然だね!私も風邪引いちゃって今日学校休むんだ。お互いお大事にね!」だって返ってきた。ああ、そしたら明日きっと学校に言ったときに皆「もう大丈夫?」って言うのは友達に対してなんだ。それで病み上がりで友達が少し咳き込んだりするとすぐにおろおろと心配し始めるのが目に見えてる。わたしが咳き込むときは皆談笑してて気付いてくれないんだろう。そりゃあ友達の方が元から女の子らしいし、か弱そうに見えるからね。

勿論わたしにだって怖い物がある。それでもそういうときって「キャー怖いー!」って言える子が心配されるに決まってる。だけど、わたしにだって怖い物がある。どうしてわたしは一人暮らしなんだろうと田舎にある実家を恨んだ。まさに、今の状況がわたしが怖いと思っている状況。わたしは、一人が怖い。いや、別に普通にしているときはそんなに差し支えないし全然平気なのだけれど、こういうときに一人は怖い。熱はめんどくさいから測ってないけど、頭が痛くて、咳が出て、目の前がまるで時々モザイクがかかったみたいにぼやー、ぼやーっとする。誰も、いないんだ。幽霊とかがいないはずの所にいるのもそれはそれで怖いけれど、何もいないと分かっててやっぱりいないって実感するのが一番嫌だ。こんな事思ってるって、誰もどうせ気付いてくれないんだ、って思ってる自分が一番嫌だけど。

ピンポーンと、わたしのアパートの部屋の呼び鈴が鳴った。わたしは別にパジャマとかになってなくて、くしゃくしゃになったワイシャツと、制服のスカートのまま、リボンを取って、上の方のボタンをだらしなく開けたまま眠っていたから別にこのまま出てしまおうと思った。誰だか知らないけど来てくれてる人ごめん、頭痛くて早く行けない。


「お、忍足…?」
「お邪魔するで」
「え…?何で忍足…」


忍足は部屋に入るなり台所にずかずかと入って行って持っていたスーパーの袋をどさっと置いた。忍足はブレザーを脱いでシャツの腕を捲り上げた。ちょ、お前料理でもする気か…!


「何やってんの」
「自分、昨日から何か食べた?」
「何も。作ってくれる人いないし」
「ちゃんと頭冷やした?」
「別に」
「駄目やないの。今俺がおかゆ作ったるからな、寝て待っとき」
「忍足は…何で来たの」
「は?」
「先生に言われてプリント持ってきたとか?そのついで?」
「何言うとるん
「あの子の方には女の子のお見舞いが一杯行ったんでしょう?ねえどれ位行ったの?男子も行った?」
「ちょお待ち
「皆あの子の事さぞかし心配してたんだろうね、皆あの子の事好きだもんね」
「落ち着き言うとるやろ
「ああ、もうやだわたしこんなこと言っちゃってるきっとどうかしてるだけだから、気にしないで」

「ちょっと黙りや、!」

「……」
「おかゆ作っとるから、出来るまで布団ん中で待っとるんや、分かったな?」


わたしはそれにおとなしく従った。忍足がいきなり大きな声を出すからびっくりしてしまった。今は眠いから寝るけど、目が覚めたら覚悟しとけ馬鹿忍足。人の耳元でよくも大声出してくれたもんだ。

わたしは何だか忍足に寝ている所を見られたくなくて、頭からすっぽり布団を被った。布団の中は真っ暗で、本当に暗くて一人ぼっちで、怖かった。それ以上に、何だか悲しくて、無性に悔しくて、目から涙が溢れてきた。こんな所人に見られたら末代までの恥だと思って、もっと布団に包まったらもっともっと暗くて怖かった。早くしろ、忍足。早く来て一発殴らせろ。ほん、と、悔しい。


「出来たで。…そないにすっぽり布団にくるまってどないしてんねん。眠っとる訳やないやろ」
「馬鹿忍足」
「そら随分な言いようやないの」
「……」
「あんな、あの子の見舞い一杯行くゆうっとたで。皆行くゆうてな」
「知ってる、分かってる」
「分かってるような声やあらへんけど」
「ほっといて」
「あんな、自分他の奴らに見てもらえてへんと思うてんのやろ?そら間違いやない。はずっと頑張っとるのにそんなに目立つ訳やあらへんしな」
「そうだよ」
「でもな、少ーしだけ間違ってんねんやわ」
「なにが」
「誰にも見てもらえてへん訳やないで」
「なんで」
「俺が見とるから」
「…」
「俺が他の奴らの分も、見とるから」
「嘘ついてたら、もう口利かない」
「ほんなら、には一生絶交されへんわ、良かった」





(おかゆの梅が妙に酸っぱかった)
一人分全員分