僕達は、綺麗な星を眺めながら、世の汚さに絶望する。
それでも、今だけは綺麗な星に身を委ねたいと、心から願う。
「夏祭り…?」
「そうだ。いや、家族が浴衣を用意してくれたのだがな…その、もう家族と行く年でも無いだろう…どうだ?」
「私はいいよ」
「そうか」
ここ、立海大付属中学校の近くの商店街では、夏に中々盛大な夏祭りが催される。参加人数も多く、神奈川県外から来る人々もたくさん居るのだ。立海生もまた例外ではなく、県内に住んでいてもここから少し離れたところから通っている生徒も多いのにも関わらず、祭りの時は仲の良い者同士祭りに行く事は珍しくは無い。
さて、その立海大付属中学校3年、真田弦一郎は今年その祭りというものを恐らく人生の中で一番待ち遠しく思っていた。もしかするとテニスの大会ほどではないだろうか。その証は謙虚に現れていて、テニス部員が祭り1ヶ月前にはもうそわそわする真田を心配するほどである。真田自身も中々部活に身が入らず、幸村や柳にしかられたり(といってもこの二人は絶対に楽しんでいるが)、赤也に裏拳をかわされたり、ジャッカルに慰められたりと散々である。そんな中、ムードも何もあったものではないが、必死でを誘ったわけだ。
言っておくが、この二人一応付き合い、というものはしている、男女の。とは言っても本当に清い関係を保ち続けていて、幸村には散々笑われ、柳には男女の違いについて保健体育のように説かれ、紳士の異名を持つ柳生には最初は「あせらない。それが男というものです」と賞賛されていたのもつかのま、「押しも大切です」と言われる始末だ。だが、真田には計画が一つあった。
この夏祭りでキスは済ませよう、と。
「真田君、待った?」
「いや、今来たところだ」
こんなありがちな言葉を交し合う二人に一線を越える事など出来るのだろうか。
それでも手を繋ぐ所までは漕ぎ着けた真田である。真田は「行くぞ」と言うといたって自然にの手を取った。内心はの浴衣姿にいてもたっても居られない気分だが言葉で褒めるなんて事は到底出来そうに無いので喉まで出ている絶賛の言葉は飲み込んでしまう。
「はぐれないようにな」
「大丈夫だよ、真田君が手を握っていてくれるから!」
「…そうか」
「真田君!流れ星!」
「ん?ああ、そうだな」
「もぉ反応薄いなあ!…綺麗だねー」
「本当だ」
流れ星は一筋の輝く弧を描いて消え行く。その消え行く様さえも立派に輝いていて、何処か儚げで。人との違いをひしひしと感じさせる。たったひとつの存在なのに、これだけ人の心を惹きつける。輝いている存在。綺麗で、一寸の穢れもありはしない、浄化された存在。
「私も星みたいになりたいなー」
「お前なら星のようになれるだろう。だが、こちらの世界も中々良いと思うが」
交わす唇、例えそれが星よりどんなに穢れた行為だとしても。
(星を見上げて僕達は自嘲しながらも自己の愚かさを改めようとはしない)