「おはよう!」と俺が声を掛けても何も返してこない子は始めてだった。
普通の子(普通に明るくて元気な子…明るいと元気はほとんど同じだね!)は俺が「おはよう!」と言えば「おはよう!」と絶対に返してくれた。あ、あっくんだけは無視されたけどね、ていうか良くて「ああ」しか無かったけど。別に俺がアン●ンマンみたいな人気者だから皆返してくれるんだぜーとかそんな自惚れとかそんなんじゃないけど、あいさつは返すものだと思ってたから俺も先に「おはよう」って言われた日にはちゃんと「おはよう」って返してたのにその子だけ、ちゃんだけは何にも返してくれなくて、でもそれはどう見ても俺が特に嫌いとか、俺に意地悪してるとかそんなんじゃないみたいで良く見たら誰もちゃんに挨拶をしないし、ちゃんも誰にも挨拶したりしない。という訳でちゃんに挨拶するのは俺だけで、そうすると何だかいきなり挨拶しなくなるのも気が引けるのでいつの間にかちゃんに一方的に挨拶するのが俺の習慣になってたりする。最初は挨拶しても目も合わせてくれなかったけどさすがにここまでしつこくやっていれば気にしてくれるのか目線だけはこっちに向けてくれるようになった。ちなみに二週間かけて。女の子の扱いなら任せてよろしくな俺がここまで頑張っちゃう女の子も珍しくて思わずムキになってまるでゲームを始めて絶対クリアしてやるぜと気合入れてる男の子みたいに絶対ちゃんを振り向かせてみせるぜみたいな目標というか決意を固めた。南にこの人類補完計画もびっくりな極秘というか丸秘大プロジェクトを話してやろうかとも思ったけど「ナンパなんてしてんな」とか言われたからやめた。壇君は女の子の話するとすぐ真っ赤になるしね。でも、俺知ってんだよ実はさ、壇君てあれわざとなんだよ、どんだけ腹ん中真っ黒なんだろー。っと話が逸れた、てことで今日もちゃんを振り向かせるべく頑張っちゃうわけだ、俺。



「おはよう、ちゃん!」
「…うん」



お、何これまた新展開!?もしかして俺に言ってくれちゃった感じ?え、マジで!?自分から挨拶してたりとか返事欲しいなって思ってたりとかしてるくせに俺はめちゃくちゃびびって固まった、いや、ほんとに。心臓のあるあたり、うんそこら辺が普通より早く脈打っててドクンドクンて俺の血が流れる音が聞こえてきて回りを通った奴に「見ろよー千石の奴ドクンドクンいってるぜー」とか言われたら恥ずかしいなーと思うほどドキドキが止まらなくて、その一瞬の目線や声だけで俺の心臓ははち切れそうなほどだっていうのにこの子に笑いかけられたり触れられたりしたらいつか心臓麻痺で死ぬと思う(別にノートに名前は書かれてないよ)前にある女の子に恋について説明してもらったら「胸がドキドキして、その人がいないと不安でどうしようもなくて、その人と話したい、触れたいって思ってやっぱり胸がドキドキしちゃう事」って言っててその頃は可愛いなぁとかそんなんしか思わなかったけど今俺に起きてる森羅万象全ての事がそれに当てはまり過ぎてパズルのピースが磁石でもついてるみたいに勝手にはめられていって俺のそれなりに高性能だと思いたい頭の情報整理機能が出した答えはやっぱり恋だった。うん、俺ちゃんに恋してるみたいだ。だけど「君が好きです。付き合ってください」とかいうありがちっていうかシンプルっていうかオーソドックスな方法は俺に言わせればノン!で、大体そんなんでちゃんに「ありがとう、嬉しい」とか頬を染めて言うような答えを求めるのもノンだと思う。どうあっても劇的に決めたいなどうしたらいいのかなうしくんかえるくんパペマペ!跡部クンなら豪勢に何か開いたりして「跡部君素敵…!」「お前のためだ、これくらいどうってことねえよ」とかやるんだろうな!わんだふぉーブルジョワ!忍足君ならきっとめちゃくちゃムードありまくりな感じだ、夜景とか使いそう。宍戸君とか普通そうだけど、真田君は想像できなぁ寧ろしたくない。だからってよくある「モテる男の秘訣」とかそんな本とかに「かわいいのに無口でなかなか目も合わせてくれないし口も利いてくれないちょっとハードボイルドな女の子を口説いちゃう方法20!」なんて記事があるわけがない。仕方ない。こうなったら奥の手だ!あのミスターポーカーフェイス手塚国光クンを自由自在に操れる大魔王様不二クン(兄)に放課後電話で相談してみよう、女の子の扱いなら以下略な俺が人に恋愛相談なんて明日は雨が降るかもね、なんて言われるかもね、気にしない!



「もしもし不二クンですかー、やっほーラッキー千石だよ」
「うん、携帯のディスプレイで分かるから」
「ヒドッ!そんな辛辣なツッコミ!」
「アハハごめん、つい…で今日はどうかしたの?」
「えーっと…恋愛相談」
「明日は雨が降るかもね」
「言われた!やっぱり言われた!」
「え、何が?」
「何でもナイデス、あのさー、かわいいのに無口でなかなか目も合わせてくれないし口も利いてくれないちょっとハードボイルドな女の子ってどうやって口説いたらいいのかな?」
「そっかぁーそれは難しいね。千石でも手こずるわけだ」
「マジで!?分かってくれる!?ホント難しいよね」
「そういう子にはね、サプライズが必要なんだよ」
「サプライズ?」
「そう、忘れられないような事をしてあげればその子から自分の事が頭に付いて離れられなくなるでしょ?」
「確かにー、ナイス不二クンありがとう!マジ愛してる!」
「フフ、告白?告白はそのかわいいのに無口でなかなか目も合わせてくれないし口も利いてくれないちょっとハードボイルドな女の子にね」
「うん、ホントありがとう!」



良し、素晴らしいアイディアも頂いた事だし早速行動に移さないと女の子のあつ以下略の千石清純の名が泣くよね。結構は明日、土曜日。勿論この結構回転が早いとやっぱり思いたい頭を時速100キロ位出してる車(安全運転、制限速度は守ろうね!)のタイヤの回転並みに回転させてサプライズな告白の経緯計画はちゃんと立てた。後は実行の為に少し必要なものを揃えるだけ。まずあっくん(二回言ってるけどあっくんてのは亜久津だよ、あの亜久津)の所に言ってあるものを借りる。何でこんなものあるんだって前突っ込んだら優紀ちゃんが男の人を家に連れてきたとき置いていったものらしい。こんな時に借りるとは思わなかったけど。後は花屋。レジに行ったら店番のおばちゃんに「デートかい?いいねぇ今時の若いもんは」っていうお決まりの台詞を言われたけど残念外れだおばちゃん。俺は寧ろそのデートに漕ぎ着けるまでに三ヶ月はかかりそうさ断られなければ。と言っている間に準備完了。明日に備えるだけ。そして、ちゃんに電話、とりあえず携帯の番号やアドレスなんてたいそうなものもらえてなんてないから悲しきかなクラスの連絡網(しかもなんて偶然名前の順じゃない我がクラスの連絡網俺の次はちゃん)で連絡、丁度親御さんがいないから俺が直接ちゃんと電話。実際電話で良かった。声はめちゃくちゃどもっててカッコ悪いけどちゃんの声を聞いて目が回りそうな俺の姿はもっとカッコ悪くて見て欲しくないしね。ちょっと罪悪感はあるけど嘘の内容で先生が何とかとか言って明日の夕方学校に呼び出す。次の人には俺が回しといてあげるって言って全て完了。後はイメトレ(はたから見たらすごい痛いよね俺)



そしてやって来ちゃった明日、というか今日。まだ朝なのに俺の心拍数は馬鹿みたいに高くて先生!心拍数下がってます!危険です!心臓マッサージの準備だ!みたいな患者さんに三分の一くらい心拍数分けてあげた方が良いほど高まる俺の胸。恋って思ったより大変でいつも恋にキャピキャピしてキラキラーって輝いてる女の子は本当にタフなんだなぁと思う。で、昨日立てた多分完璧な計画の下、準備を始める。そんで、ちゃんを待たせてる教室に出発、俺戦いに行ってきます。



「何で誰も居ないんだろ…千石君がここって言ったのに…」
「ごめんね、ちゃん?」
「千石君?…どうしたのそのカッコ」



そりゃあナイスツッコミ。俺は真っ赤な、えーと真紅のスーツに身を包んで特大薔薇の花束持ってるんだから突っ込むはずだよね、うん。あ、いつぞやに跡部クンが同じ格好してたとか言っちゃ駄目だからタブーだから。俺は呆然と立ち尽くすちゃんの前まで歩いていって跪く。



「騙す様な無礼な行為を行い真に申し訳ありませんでした。しかし私めの想いを伝えるために御座います、姫様」
「…せん、ごくくん?」
「清純とお呼び下さい姫様。この千石清純、貴女様を長らくお慕いしておりました、私の想いをこの花と共に…」
「…ホント、変わってるんだね…せんご、じゃなくて清純は」





(君を連れ去れ、薔薇の王国へ!)

薔薇色想いを君に捧ぐ











なんか甘になってないかもゴメン!(スライディング土下座)